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2016.09.10 似顔絵考
似顔絵から考えるNHKのニュース解説

1.NHK解説委員の似顔絵
 NHK解説委員室のホームページでは、「解説委員紹介」のコーナーで所属する解説委員を紹介している。ここでは、1人ひとりの解説委員の似顔絵を見ることができる。
 解説委員は、アナウンサーや気象予報士と同様、NHKの番組では目にすることの多い存在と言える。アナウンサーでも気象予報士でも、あるいは野球選手や内閣の閣僚などでも、そのプロフィルには通常、顔写真が付されている。NHK解説委員のように似顔絵とともにプロフィルを紹介する例は、珍しいのではないかと思う。

 NHKでは、毎年度7月に人事異動があるようで、解説委員室製作番組でも7月以降、「時論公論」(23時55分~)や「ここに注目!」(「おはよう日本」6時台)を中心に、新たな委員が担当する場面が増加する。
 新たな委員が毎年加わることに伴って、似顔絵も入れ替えとなる。早い年では、8月前後にホームページが更新されてきていた。しかし、今年は旧委員の似顔絵が除かれるに留まっており、私はプロフィルページが何らかの形で改変されるのではないかと予想していた。
2.「手」が描き加えられた似顔絵
 「解説委員紹介」のページが更新されたことを確認したのは、9月9日のことだった。今年度の人事異動では、司法・事件担当の鎌田靖委員が経済担当の関口博之委員に代わって解説副委員長となり、政治担当の伊藤雅之委員と災害担当の松本浩司委員が復帰、清永聡・曽我英弘・増田剛・神子田章博・村岡孝彦の各委員が新たに加わった。

 新しい似顔絵はNHKのサイトでも確認することができるが、その作風はこれまでの似顔絵と比べて大きく変化した(http://www.nhk.or.jp/kaisetsu/committee/index.html)。
 従来の似顔絵が胸像形式だったのに対し、今回からは手や腕が加わって、動きが出てきたことが特徴的である。胸像タイプの似顔絵がほとんどを占める中、「手つき」の似顔絵がその中に混在する形となり、当初は少々違和感を感じたが、これはこれでよいのかなという気もしてきた。

3.山藤章二氏が確立した「似顔絵の楷書」
 似顔絵に「手」を描き入れる手法で有名なのは、『朝日新聞』の政治面でおなじみの山藤章二氏(1937~)である。山藤氏はそれまで同新聞の似顔絵を担当していた清水崑氏(1912~1974)の後を受けて、1974年から紙面を飾り始めた。

 清水崑氏は、吉田茂の風刺画で一世を風靡した漫画家である。また、清水氏のさらに前には、「漫画漫文」という新たな手法を確立した岡本一平氏(1886~1948)がいる。山藤氏は、岡本―清水という、一時代を築いた大先達を意識しながらも、自らの路線を開拓してきたということを自著で述べている(山藤『似顔絵』、岩波新書、2000年)。

 加えて、新聞の政治面では、喜怒哀楽をはっきりと湛えた似顔絵ではなく、「顔写真がわり」になるものが求められていた。山藤氏は、このことについて以下のように述べている(山藤2000著書、23頁)。

  主観を入れられないから、似顔絵の本領である、「からかう」「引き下ろす」ということができない。
  似顔絵のいちばんおもしろい部分、おいしい部分が描けない。

 厳しい制約の中、山藤氏がたどり着いたのは、胸像風にカットした似顔絵に、「手」を描き加えるというものだった。これによって、山藤氏の似顔絵は高い汎用性をもちながらも、個性を吹き込まれた「似顔絵の楷書」としての立場を確立した。これらの似顔絵は、今日でも『朝日新聞』で目にすることができる。

 このように、似顔絵に手を描き加えることは、その絵から人間味をにじみ出させるとともに、それでいてうっすらとした風刺をも込める効果があると言える。解説委員室の似顔絵を見て、私が感じた「違和感」のゆえんは、「解説委員を『風刺する』必要はあるのか?」ということだったのかもしれない。

4.これまでのNHK解説委員室と、これからのニュース解説
 しかし、この10年ほどの解説委員室は、双方向解説を取り入れて視聴者との対話を意識するとともに、解説委員が芸能人と席をならべて時事問題を議論する番組を製作するなど、新しい取り組みを打ち出してきている。難しくてマジメな、「堅い」ニュース解説像の対極を目指していることは確かだと思う。
 そういった経緯を考えれば、今回、新解説委員の似顔絵に描き加えられた「手」は、解説委員室が向かう方向性を示しているようにも思える。

 ただ、解説内容について一言注文を述べさせていただくならば、「視聴者に媚びない解説」もたまにはあってもよいのではないか、とも思う。以前の例で言えば、国際安全保障担当の秋元千明解説委員や、国際金融担当の山田伸二解説委員の解説は、時に専門用語も躊躇なく用いるなど、難解に感じることもあった。それに対して最近は、「時論公論」の前説の部分で、その日の解説のポイントが示されるなど、「わかりやすさ」を意識した取り組みが目立っている。
 「わかりやすい」解説は確かに大事だとは思うが、10分という限られた時間では落とさざるを得ないものもあるだろうし、難解な専門用語を敢えて用いることで、視聴者がさらに深く調べるきっかけを提供できる場合もあると考えられる。

 デジタル技術の進展によって、「あすを読む」の頃は10分あたり1~2枚のフリップを使用していた解説のスタイルも、パワーポイント式のスライドを何枚も駆使する方法に変化しつつある。この先10年、それ以降も、NHKのニュース解説には、「堅い」番組の伝統も大切にしていってほしいと思う。そんなことを感じた「似顔絵作風の変化」だった。

(余録)
 山藤氏の似顔絵も、近年は目にする機会が減っている。内閣改造のたびに、閣僚のプロフィルを似顔絵を添えて紹介する「閣僚の横顔」も、先の8月におこなわれた改造では似顔絵が入っていなかった。氏の体調不良などでなければよいのだが、顔写真では白黒の紙面でインパクトが薄くなるし、どことなくよそよそしく見える。山藤氏の似顔絵が、これからも『朝日新聞』の政治面を飾ってくれることを、ファンの一人として祈っている。
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